温泉療法

温泉療法

温泉療法

温泉療法医とは、日本温泉気候物理医学会が認定するものです。その認定基準によると「温泉専門医を認定するのではなく、一般医師に対し温泉治療学の啓蒙をはかるとともに、温泉療養者に対する一応の療養指導を行い得る医師の教育とその認定を目的とする」となっています。 温泉療法医は、平成22年8月1日現在、全国で1025名が認定されています。

療養泉の定義
1. 温度(源泉から採取されるときの温度)摂氏 25 度以上
2. 物質(下記に掲げるもののうち,いずれかひとつ)

物 質 名 含有量(1 kg 中)
溶存物質(ガス性のものを除く) 総量 1 000
遊離二酸化炭素(CO2) 1 000
総鉄イオン(Fe2++Fe3+) 20
水素イオン(H+) 1
よう化物イオン(I-) 10
総硫黄(S)[HS-+S2O32-+H2S に対応するもの] 2
ラドン(Rn) 30×10-10 Ci=111 Bq 以上 (8.25 マッヘ単位以上)

温泉療法の物理的作用

人が温泉に浸かることによって温泉に対する水圧、浮力、温熱などが体に作用します。
水圧による作用は、人は湯に浸かることによって一定の空気圧の圧迫から解放され、内臓の負担が軽減します。 これによって一定のマッサージ効果を与えられます。 また、この状態で呼吸を行うことによって肺機能を強化することが可能です。
浮力による作用は、人は水中にいた時に全体重の九分の一にまで軽減するが、これは浮力が及ぼしています。 したがって、体が軽くなるので、筋肉や関節を動かすことに対し、負担を軽減することが可能です。 温熱による作用は、入浴することで体温が上昇し、それにより血行を促進したり、また一部の疾病に効果を発揮します。 高温を利用すれば、一種の麻酔、刺激効果を与えられ、また人肌ぐらいの低温を利用すれば、リラックス効果が期待できます。 温泉による入浴は自律神経を正常化する作用があります。
自律神経には人を興奮、昂揚させる交感神経と人を鎮静させる副交感神経があり、後者に強く働きかけます。 これは、温泉に浸かることによって筋肉などが弛緩し、リラックス効果を与える、血行促進による脳への負担を軽減し、また温泉地に出向き、大自然や大浴場に触れることで苦痛、社会的ストレスなどから解放されるという心理的な作用も大きい。

温泉の種類

単純泉

よく「単純泉」と呼ばれますが、正式には「単純温泉」です。単純温泉とは成分が単純なのではなく、含有成分の量が一定量に達していないものを言います。つまり体にやさしい成分の薄い温泉なので、刺激が少なく高齢者向きです。 中風、神経痛、脳卒中後遺症、骨折、外傷の後療養、病後の回復などに効果があります。だいたい低温であるため、飲用しても胃に負担はなく、利尿作用もありますし、軽度の胃腸炎にも効果的です。
湯は無色透明で無味無臭、石鹸も溶けますし、入浴感もやわらかです。

食塩泉(ナトリウム-塩化物泉)

口に含むと塩からく、海水に似た食塩を含む温泉です。
温泉1キログラムにつき、塩分15グラム以上含むものを強食塩泉といい、5グラム未満のものは弱食塩泉と区別されますが、温度が低く濃度の高いものは水成岩地質から湧くのが普通で、濃度が高く高温の湯は火山性であり、地中深くから湧き出します。

成分が体に付着して毛穴をふさぐ為に、入浴後の保温効が高いので、きりきず、やけど、慢性皮膚病、慢性婦人病、冷え性などに効果があります。

重曹泉(Na炭酸水素物泉)

重曹が主成分。沸騰させると溶けている炭酸ガスが放出されて赤いアルカリ性反応を示すが、地下から湧出するときは必ずしもアルカリ性ではない。
正式にはアルカリ性温泉とは言わない。無色透明。単純な重曹泉も多いが、重曹は色々な塩分を含み、とても種類の多い泉質である。 例えば重曹石膏泉とか、食塩重曹泉など。 石鹸の効きがよい・乳化現象により皮膚の表面を柔らくし、脂肪、分泌物を洗い流す.入浴後、肌がつるつるになります。美人の湯、美肌の湯と呼ばれています。

乳化現象により皮膚からの水分の発散がさかんになり、湯冷めしやすいので切り傷・火傷・慢性皮膚病などに効果があります。

炭酸泉(二酸化炭素)

泉水に炭酸ガスが溶け込んでいる泉水です。 冷泉の多いのが特徴で、末期的火山地帯の地層深部から湧き出ますので、火山国日本には数が少ない温泉です。

炭酸ガスが無数の細かい泡になって皮膚に刺激を与えて、毛細血管を拡張させるので、心臓に負担をかけずに血行を良くします。
このため高血圧の人でも自然に血圧が下がり、心臓病にも効くといわれています。 炭酸ガスの作用で、サイダーのように清涼飲料水の代わりになり、昔は、温泉を原料にしてサイダーを作っていた温泉地もあります。

硫酸塩泉(苦味泉)

含有成分により、カルシウム硫酸塩泉(石膏泉)、ナトリウム硫酸塩泉(芒硝泉)、マグネシウム硫酸塩泉(正苦味泉)に分かれます。

「石膏泉」は、浴用ではカルシウムの鎮静効果が高いため、昔から「傷の湯」「中風の湯」といわれ、高血圧症、動脈硬化症、脳卒中、慢性関節リューマチに効果があり、打身、切り傷、火傷、痔疾、捻挫にも良いされ、皮膚病では乾癬(かんせん)、慢性湿疹、ニキビ、皮膚のかゆみにも良いとされています。
飲用では芒硝泉と同じ効果があり、じんましんにも効果があります。「芒硝泉(ぼうしょうせん)」は、浴用では高血圧症、動脈硬化症、外傷に効果があり、また、飲用では胆汁の分泌が促進されて腸の蠕動(ぜんどう)運動を活発化するため、胆道疾患、弛緩性便秘、糖尿病、肥満症、痛風に効果があります。
また、無色透明無味無臭ですが、ナトリウム分を多く含んでいるため、血圧を下げ、痛みを和らげる鎮静作用があります。

「正苦味(くみ)泉」は、浴用・飲用ともに他の硫酸塩泉と同じ効果があり、特に高血圧症の血圧を降下させ、 脳卒中後の麻痺を改善し、動脈硬化予防の効果は明らかです無色透明無臭。
特有の苦味があります。マグネシウム分を多く含んでいるため、血圧を下げ、痛みを和らげる鎮静作用があります。

鉄泉

炭酸鉄泉と緑ばん泉の2つにわけられ、その名のとおり鉄分を含みます。
炭酸鉄泉は重炭酸第一鉄、緑ばん泉は硫酸鉄が主体です。赤茶色に濁っていますが、これは源泉が空気に触れて次第に酸化したもので、老化現象の証拠です。
したがって効力もいくらか減少します。緑ばん泉は造血作用が高い上に、強酸性のものが多く、炭酸鉄泉と同じで赤茶色に変わると効力は低下します。

貧血、腎臓病、胃腸、筋・関節痛、慢性皮膚炎、更年期障害、月経障害、子宝の湯などといった効能があります。

硫黄泉

遊離炭酸ガスや硫化水素を含有しない「硫黄泉」と遊離硫化水素や炭酸ガスを含有する「硫化水素泉」の2種類があります。
ぷーんと玉子の腐ったにおいがして、少々とっつきにくいのが難点ですが、なかなか多角的な効果を示す温泉です。
卵の腐ったような匂いがする硫化水素ガスに触れた鉄・銅・錫等の金属は、酸化して黒くなるので装飾品は外して入浴したほうが無難です。
しかし効能は多彩で末梢毛細血管を拡張させたり、心臓の冠動脈、脳動脈に働いてこれを広げる効果があって、動脈効果、頸肩腕症候群等にも良いです。

さらに、皮膚の角質を軟化溶解するので、角化症、慢性湿疹、苔癬(たいせん)、慢性膿皮症等の皮膚病のほか、寄生虫の疥癬(かいせん)にも効果があります。
ただし、硫黄泉は、浴用・飲用とも、身体に強い変調作用を与えるため、病弱者・高齢者などはなるべく避けたほうがよいでしょうまた、皮膚や粘膜の弱い人は湯あたりや皮膚炎を起こしやすいので注意が必要です。

放射能泉

放射能泉は、文字通り放射能を含む温泉です。
放射能というと怖いイメージがありますが、温泉中に含有されるラドンは常温で気体、湧出後は空気中に散飛するため全く心配ありません。
これらは浴用・飲用でも体内に吸収されますが、呼気によってすぐ体外に排泄されます。 ラドンは吸入が一番良く、 浴槽を仕切って、ラドンを吸入しやすくした浴場も見受けられます。

高尿酸血症、痛風、尿路慢性炎症、糖尿病に効果があり、下垂体副腎系、卵巣、睾丸の機能を高める作用もあります。 浴用によって腎機能は改善され、鎮静的に作用するので、神経痛、リューマチ、神経麻痺、自律神経過敏状態等に利用されます。 尿酸を尿から出すので「痛風の湯」とも言われます。ただし、放射能泉は湯あたりを起こしやすいので注意が必要です。無色透明な湯で、薬効の効率がもっとも高いです。 数が少なく貴重な温泉です。なお、放射能泉は空気に触れたり、時間がたったりすると効能成分が失われやすいので、温泉が浴槽の下から注がれている風呂が理想的です。

酸性泉

文字通り酸性度の高い温泉です。
この泉質の湯は殆どが無色又は微黄褐色で酸味があります。抗菌力があるため、 白癬(はくせん)症、トリコモナス膣炎、疥癬(かいせん)等に効果があり、飲用では低酸・無酸症や低色素性貧血等に利用されます。
なお、酸性泉は刺激が強いため、病弱者、高齢者及び皮膚の弱い人等には適しません。
体に強く作用するので、入浴すると肌がしみ、肌の弱い人は湯ただれをおこすことがありますので、浴後はシャワーなどで洗い流し十分に拭くことが必要です。